変形性膝関節症の保存療法は、効果の異なる治療法を組み合わせて、症状の改善をめざします。
膝の負担を減らし、痛みの治療を行いながら、膝の動きや安定性を良くしていく療法です。この保存療法を3つご紹介します。
もくじ
変形性膝関節症の保存療法
変形性膝関節症を治療する目的は、痛みなどのつらい症状をやわらげることと、膝の機能である「支持性」「可動性」「無痛性」を高めることです。
保存療法は、治療目的に近づくための積極的な手段で、とくに単純X線検査で、関節の変化が軽度と判断された場合は、適切な保存療法を行うと、病気の進行を遅らせることができます。
生活改善や体重コントロール、装具療法で膝の負担を減らすと同時に、運動療法で膝を支える筋肉を鍛え、膝の安定性を高めるというのが基本です。
痛みや炎症に対しては、その程度に応じて、物理療法、薬物療法、関節内注射を組み合わせて治療します。
膝に負担のかかる生活を続ける限り、変形性膝関節症は進行しますが、痛いからと動かずにいると、下肢ばかりでなく全身の筋力や心讓能が衰えていきます。
大切なのは、膝を動かしながら治していくことです。
生活改善や体重コントロール、運動療法は鎮痛剤や関節内注射のような即効性はありませんが、とくに初期や中期の場合は十分に効果を実感できます。
膝の負担を減らす保存療法①生活改善と体重コン卜ロール
生活習慣や環境を見直し、肥満があれば減量します。
小さな改善を積み重ねることによって、全体として膝の負担を大きく減らせます。
膝にやさしい洋式の生活
正座など膝を深く曲げることの多い和式の生活から、テーブルと椅子、ベッド、洋式トイレの生活に切り替えると、膝の負担は軽くなり、痛みを感じる場面も少なくなります。
また、重い荷物を持つのを避けたり、かかとの高い不安定な靴をやめて、安定感のある靴を履くなど、生活習慣を改善することも大切です。
立っているときや、歩いているとき座るときなどの姿勢の改善、階段の上り下りやちょっとした動作の改善なども、効果的です。これらは毎日のことなので、地道に積み重ねれば効果が出ます。
体重コン卜ロールで膝の負担減
体重を適正に保つことは、変形性膝関節症の治療で重要な位置を占めます。
肥満の人は、減量するだけで痛みがやわらぐこともあります。大切なのは、ただ体重を減らすのではなく、たんぱく質やビタミン・ミネラルなどを十分に摂取し、筋肉量を保ちながら脂肪を減らしていくことです。
食と運動を適切に行いましょう。体重コントロールは、糖尿病や高血圧、脂質異常などの生活習慣病の改善にも役立ちます。
住居のバリアフリー化や手すりの設置
家の中は案外段差が多く、とくに古い家屋では、玄関やお風呂場などに、大きな段差のあることがめずらしくありません。
膝の負担を減らすためには、段差をなくすバリアフリー化をできるだけ進め、玄関や、しゃがむ動作が避けられない卜イレやお風呂場には、手すりを設置することが望ましいでしょう。
最近は、ホームセンターなどで、簡単に取り付けられる手すりや段差プレー卜を購入できます。介護保険の住宅改修を、多く扱っている工務店に相談するのもよいかもしれません。
膝の負担を減らす保存療法②運動療法
変形性膝関節症の運動療法は、筋卜レ、ストレッチング、有酸素運動の3つをバランスよく行うことが大切です。
膝を支える筋肉を強化し、膝の柔軟性を保つことができます。
筋力アップと血流改善で痛みの軽減
痛みがあると、体を動かしたり、出かけたりすることが苦痛になりますが、動かないと筋肉が減っていきます。
そのために、膝が不安定になり、関節への負担が増して、強い痛みを感じるという悪循環に陥ってしまいます。
また、筋肉を動かさないと血流がわるくなり、痛み物質や疲労物質が排出されにくくなります。
このような状態を改善するのが、運動です。筋肉を増やして膝を安定させ、筋肉を動かすことで血流をよくして、痛み物質や疲労物質の排出を促します。
血流が改善すると、関節内の組織の新陳代謝がよくなり、細胞が活性化して、閨節軟骨が再生しやすくなるという効果も期待できます。
運動療法は、薬物療法などの対症療法と異なり、直接膝に働きかけることができる治療法です。
筋肉を増やす筋トレ、筋肉や靭帯などの柔軟性を高め、血流促進の効果もあるストレッチング、全身の筋力アップや、体重コントロールに有効な有酸素運動を、バランスよく行うことで効果が得られます。
個人差はありますが、1〜2力月続けると、多くの人で痛みが改善します。
理学療法士の指導で行う運動療法も
理学療法士は、理学的リハビリテーションを行う専門職の1つで、医師の指示(運動処方)に基づいて、運動療法や物理療法を実施、指導します。
病院やクリニックのリハビリ室、あるいは運動室で、器具を使った筋トレや、ストレッチング、有酸素運動を行うほか、自宅での運動メニューなどを指導してくれます。
理学療法士による運動療法を受けるメリットは、正しい運動の方法を覚えられることや、一人一人に合った運動を考え運動の強度を調節してくれることでしょう。
ほかに、膝の負担を軽くする姿勢や動作についてアドバイスを得たり、自宅の段差解消や手すり設置について相談することもできます。
膝の負担を減らす保存療法③装具療法
変形性膝関節症の装具療法は、足底板や支柱入りのサポーター、杖を上手に利用して、膝の負担を軽くします。
装具は、医師の処方に基づいて、義肢装具士がその人に合うものをつくります。
足底板で膝の角度を調整
膝の変形が進み、O脚やX脚が悪化すると、すり減った側の軟骨に大きな負担がかかり、痛みが強くなります。
足底板は、靴の中敷のようなもので、O脚の場合は足の外側、X脚の場合は足の内側の部分が高くなっていることが特徴です。
このような足底板を利用することによって、膝の角度を調節することができます。
体重がかかるのは、股関節の中心と、足関節の中心を結んだ「荷重線」です。O脚の人は、荷重線が膝の内側に偏っているため、内側の軟骨がすり減りやすいのです。
軟骨がすり減り、ますますO脚が進み、痛みも増しますが、足の外側が高い足底板を靴に入れると、荷重線が膝の中心に近づきます。
その結果、膝全体でバランスよく体重を支えられるようになり、痛みが軽減するのです。
靴の中敷として使う夕イプのほかに足に装着する夕イプもあります。
足底板をつくったり調整するのは義肢裝具士
医師の処方による、医療用の足底板は市販のものより高額ですが、公的医療が適用されます。その人の体形や症状に合うものをつくるために、義肢裝具士が採寸や型どりを行い、試着と微調整を経て完成します。
少し時間はかかりますが、義肢装具士や医師と相談しながらつくれることは、大きなメリットです。義肢装具士は医療専門職で、国家資格です。
膝を安定させる支柱入りサポーター
太ももから膝下までを覆うサポー夕ーで、金属やプラスチックでできた支柱によって、膝をしっかり支えます。一般的なサポーターとくらべ、支える力が強いため効果的です。
膝の動きを支える大腿四頭筋や靭帯が弱っている場合は、支柱入りサポーターを使用することによって、ひざが安定し、歩行などの動作が楽になります。
しかし、サイズが合っていないと、血行不良により痛みが悪化することもあります。市販のものもありますが、医師の処方を受けて、体形に合うものを使用することが望ましいでしょう。
保険適用になる杖
杖を使用すると、膝の負担が20%程度減ることがわかっています。
市販の杖を購入してもよいですが、医師が必要と判断した場合は、公的医療保険が適用されます。
医療用の杖として、地面につく部分が3〜4つに分かれた、安定性の高い「多点杖」を選ぶこともできます。
ふつうの1本杖にするか、多点杖にするかは、医師や理学療法士と十分に相談し、自分自身の生活に合ったものを購入するようにしましょう。