64歳の無職男性、鈴木さんは、老後の健康のために50歳すぎから始めたジョギングが原因で膝を痛めてしまい、受診しました。
最初は1、2キ口程度のランニングでしたが、走っているうちに楽しくなり、4、5キロの早朝ジョギングを続けていました。
膝が痛くなったのは、60歳をすぎたころからです。結果は変形性膝関節症でした。
ジョギングと変形性膝関節症
鈴木さんは「膝が痛くて、痛くて」ととてもつらそうです。
この膝の症状は「酷使」しつづけたためにおきたのです。中高年のスポーツは変形性膝関節症など、さまざまな膝の病気の危険があります
関節に過度の荷重ストレスを加えつづけることは良くありません。特に若いときスポーツをしていなかった人が、中高年で急に始めた場合は要注意です。
杖や手すりを使って膝を守る必要があります。そして温熱療法(ホットパックや電気的治療)で膝を温めて血行を改善し痛みをやわらげるなどの対策が必要になります。
長い距離を走るジョギングも、膝に体重の3〜5倍の荷重がかかります。膝の繰り返し運動になるので半月板や関節軟骨を痛めます。膝に負担をかけないジョギングなどはありません。
若いときからおこなっているスポーツならまだしも、中高年でジョギングをはじめたりすると、関節軟骨が強くなく、老化がはじまった状態で無理をすることになります。
そのため、膝が耐えられなくなり、痛みがでるのです。中高年ではじめるスポーツは、身体のすべての部位に悪影響を及ぼすおそれがあります。
しかし、黙々と走っていると、ある時点から徐々に気分が良くなり、どこまででも走れそうな陶酔感に浸り、走りを止められないような気分になるといいます。これは、「ランナーズハイ」という現象です。人によっては走り始めて5〜15分ほどで陶酔感を味わう人もいます。脳内エンドルフィンが分泌されることが原因とされています。
ジョギングでのランナーズハイに注意
「ランナーズハイ」はマラソンのような長距離を走っている途中(長時問の激しい運動中)で、1時的に走り続けていることの苦痛がやわらぎ、このままどこまでも走り続けられるような気分になるなど、稍神的にハイな状態になる現象をさします。
強い痛みやストレスを受けると、人間の脳からは、麻薬様物質が多量に分泌されます。つまり、マラソンやジョギングで「苦しい」と感じるとこれらの物質が分泌されてランナーズ.ハイが起こるというわけです。この麻薬様物質が、エンケファリンやβエンドルフィンと呼ばれるもので、ジョギングに限らず、反復する鍛練はエンドルフィンの産生を活発にするともいわれています。
ハイになった状態で走り続けると、知らず知らずのうちに膝への負担が大きくなるので十分に注意しましょう。
剣道と膝
例えば、剣道というスポーツは初心者でも専門家でも膝を悪くする人が多いのです。
たとえば、警視庁は日本一の剣士を目指す剣道選手が集まることでも知られていますが、将来有望視された人でも激しい訓練のなかで膝を痛めて落伍していく人が多いと聞いたことがあります。
剣道は思い切り踏み込んで「面」を打ちに行くとき、素足で、右足を固い床にたたきつけるように前にだします。そのとき、右膝にかかる荷重は勢いがつくので体重の3〜5倍にもなります。
60キロの人なら1回に片足200キロ以上の荷重がかかるのです。それが短時間で何回も。膝関節内の半月板クッションもギユッと痛めつけられます。フェンシングも膝に負担がかかり膝に悪いスポーツですが、特に剣道は重量のある防具を身につけるので負担も大きくなります。そうした膝への衝撃が積み重なった末が変形性膝関節症です。
江戸時代の剣豪は道場に大豆を撒いて(踏みつけると痛いため)、すり足で足さばきの修練を重ねたといいます。これならば膝を痛めないでしょう。
社交ダンスでも膝を痛める
また、映画の「shallweダンス?」ではありませんが社交ダンス(ボールルームダンス)にはまって変形性膝関節症になった人もいます。
社交ダンスでなぜ膝が?と思いますが、上級者、指導者レベルの人の話では「競技ダンスは格闘技です。ステップ練習もいい加減ではだめ。他人が見ているので余計に意識して練習をするのです」とのこと。練習が終わったら足が棒のようになって、膝もガクガクになるといいますから、膝への荷重ストレスも相当なのでしょう。
膝に良いスポーツ
高齢者のスポーツに最適なのは水泳かもしれません。
競泳はべつにして、楽しむ水泳は膝に体重負荷がかからないので、公営プールに行くのはどうでしょう。監視員もいて、安くて、今では1年中やっているところもあります。泳げない人向きの水泳教室もあります。
水泳は膝をひねる動きをする平泳ぎよりはバタ足のクロールのほが良いでしょう。もちろん競泳ではなく楽しむ泳ぎが基本。
腰くらいまでプールの水につかる水中歩行は、歩行バランス・歩行筋力をつけるうえで特におすすめですが、男性は「格好が悪い」などと言ってなかなか参加しないようです。
中高年は生涯スポーツを目指して、気長に各種目を楽しんでほしいものです。ただし、膝に痛みがでたら、膝専門医にかかりましょう。