痛みだけをやわらげる目的で局所麻酔薬(リド力インなど)を神経末端に注射(トリガーポイントブロック)することがあります。
こうした注射は麻酔科の専門医が得意とする技術で、神経を一時的に遮断する麻酔です。
ここではそれらの変形性膝関節症のたいする薬物療法(注射)について解説します。
変形性膝関節症の膝関節に注入する薬
痛みをとるだけでなく、有効成分を直接、変形性膝関節症の膝関節に注入する薬もあります。 関節の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)剤や、閲節軟骨の保護のための関節軟骨細胞活性化剂(高分子ヒアルロン酸ナトリウム=商品名アルツ、スベニールなど)の注射薬が開発されています。
ステロイド剤の副作用
ステロイド剤は一時的に炎症を抑える力も強い、良い薬です。ただし、注射のステロイド剤を長期問、大量に使うとさまざまな副作用が引きおこされます。
実際には長期間使うこともありませんが、その副作用としては、長期間注射し続けますと、まれですが骨軟骨が強く破壊されるステロイド関節症がおこることがあります。
骨・軟骨代謝にも少し影響し、骨の細胞が作りだされる過程を妨害して(専門的には骨芽細胞のコラーゲン合成抑制などといいます)骨粗しょう症になることもあります。
また、ステロィド剤を関節内に注入することによって、ステロィドが間節の中で結晶となって、それが引き金になってまた炎症が起きることもあります(結晶誘発性関節症)。
さらに、骨・軟骨壊死の炎症の副作用をおこすこともあります。この副作用はたった1回の注射で起こることもあります。
副作用を強調しましたが、約70年前に開発されたステロイドは、これだけしっかりと効果と副作用のことがわかっているので、専門医はよく理解したうえで使っています。
膝へのヒアルロン酸注射
関節軟骨細胞活性化剤(高分子ヒアルロン酸)を関節に注射するのは、膝に一種の潤滑油を注入する治療法です。
滑膜細胞から分泌される関節液の主成分がヒアルロン酸で、体内でさまざまな働きをします。
ヒアルロン酸の最大の特徴のひとつは、高い保水力をもつことです。
高分子ヒアルロン酸とは
細胞と細胞を結びつけている組織を細胞外マトリックス(extracellular matrix : ECM)といいます。
これらはたんに細胞と細胞を結合させるだけでなく、細胞に必要な成分・栄養分を補給したり、細胞からの不要物質(二酸化炭素や老廃物など)を運搬したり、さらには細胞間における重要な調節機能を営んでいます。
この細胞外マトリックスのなかで も、ムコ多糖類が大切な役割をしていて、その代表が高分子ヒアルロン酸です。
人間の体は、いくつかの細胞が結合して組織や器官を形成しています。これらの器官を一定の形状に保持するための組織を結合組織といいます。
細胞と細胞の間を高分子ヒアルロン酸などのムコ多糖類やコラーゲンなどが「繫いで」いるために各器官が一定の形状を保てるのです。
保水力のある高分子ヒアルロン酸は関節の運動を円滑にするほか、関節の衝撃吸収に役立つなどの重要な働きをもっています。
高分子ヒアルロン酸は細胞中に含まれる物質のひとつで粘性(ネバネバ)があり、組織を結合して関節の動きを滑らかにする働きがあります。
高分子ヒアルロン酸は、皮樹、関節液、大動脈、腎臟、大脳、心臓など、体の重要な臓器や器官のすべてに存在していることがわかっています。
皮膚の細胞をはじめ、全身の細胞・器官が潤いのあるしなやかな状態にあるのは、高分子ヒアルロン酸を含むムコ多糖類が細胞と細胞との間に豊富に存在しているからなのです。
高分子ヒアルロン酸は日本で開発(ニワトリのトサ力から抽出)された薬です。膝の痛みを抑えて、膝関節を動きやすくさせます。さらには、軟骨細胞表面にあるゼリー状の粘性の強い物質で、細胞の保護や細胞と細胞を結びつける役目をもつ特殊なタンパク質(プロテオグリカン)の減少を防止します。
また、軟骨代謝の活性化、さらには軟骨代謝の活性化をじゃまする物質をやっつける作用のある薬剤として認められています。
2005年11月には、高分子ヒアルロン酸を膝に注射したときの効果をめぐってさまざまな研究報告がありました。
しかし、高分子ヒアルロン酸がどのように作用しているのかについてはまだ完全に解明されていないため各大学などで研究が続けられています。
軟骨を保護しようという薬には高分子ヒアルロン酸のほか、軟骨や腱などを構成する硬タンパク質の一種のコラーゲン、それに、骨細胞の古いものと新しいものが入れ替わる(代謝)作用を増進する、ムコ多糖類のグルコサミン(商品名=アルテパロンなど)があります。
ただし、グルコサミンの副作用には関節内注入後の刺激作用(膝関節に大量の水がたまる)が報告されています。現在ではほとんど使われていません。
薬物療法は原因そのものをなくすわけではない
薬物療法には重要な留意点があります。症状をとる対症療法だということです。
薬の除痛効果によって、病魔に冒されてすり減った関節軟骨のことをすっかり忘れて、不用意に膝に負担(ストレス)をかけると、さらに関節軟骨がギュッと痛めつけられ、膝の病気を進行させることがあるということを覚えておきましょう。