病院などのリハビリ室で受ける、理学療法士による変形性膝関節症の個別リハビリは、1回20分程度です。
しかし、これからご紹介する痛みの軽減法は日常の場面でできるため、1日を有意義に使えます。
1日のうち、睡眠時間が7時間(420分)だとしたら、起きている時間は1020分。リハビリ室でのリハビリ20分は、起きている時間のわずか2%ほどにすぎません。
一方、セルフケアとして、姿勢や動作の工夫、生活の改善、自宅での運動療法を行えば、起きている時間のほとんどを活用することができます。
その分、効果も期待でき、変形性膝関節症による膝の痛みを改善する近道といえます。
もくじ
軽減法①膝の痛みのためには和式から洋式の生活へ
椅子やテーブル、ベッド、洋式トイレなど、洋式の生活様式を取り入れると、膝を深く曲げる動作を減らすことができます。
これは毎日のことなので、効果が期待できます。
大がかりな改修をしなくてもできる範囲で家を替えていきましょう。
しゃがんで、そこから立ち上がるという動作が多い和式の生活は、膝に負担がかかるため、変形性膝関節症の人には不向きです。
とくに、座る・立ち上がる、寝る・起き上がる、トイレに行くという動作は、一日のうちに何度となく行うため、これらを洋式に切り替えるだけで、膝の負担は大きく減ります。
生活スタイルを切り替えるポイント
- 畳や床に座るのではなく、椅子とテーブルにする
- 布団からベッドにする
- トイレを和式からにする
トイレをすっかり改修しようとすると、大がかりになるので、和式トイレの上にかぶせるだけで、洋式トイレとして使用できる「簡易洋式便座」を使うのも一案です。
さまざまな夕イプがあり、価格はだいたい数千円〜1万5000円前後です。介護用品売り場などで扱っています。
また、おしりが沈み込むソファは、座ったり立ったりするときに膝に負担がかかります。座布団やクッシヨンで調節すると、動作が楽になります。
介護保険も使える
また、両側の膝に著しい変形を伴う変形性膝関節症と診断された場合には、介護保険を利用できます。
要介護1以上であれば、トイレを洋式に変更する住宅改修の費用を、介護保険でまかなえます。介護保険の相談は、地域の「地域包括支援セン夕ー」でできます。
軽減法②膝に負担をかける重い荷物は避ける
膝に痛みがあると、重い荷物は持ちたくありませんが、どうしても避けられないこともあります。
そのようなときは、キャリーバッグを利用するなどしましょう。
車輪付きのバッグで肩や腕から荷を下ろす
膝が痛い人は、重い荷物を持たないことが基本です。買い物など、重いものを持ち歩かなければならないときは、車輪付きのショッピングバッグや、キャリーバッグを利用しましょう。
O脚が進行した人は、両手で押して使えるシルバ—カ—も選択肢の1つに加えてみてください。
どうしても手で持つ場合は、片側に負担が偏るのを避けるために、荷物を2つに分け、同じくらいの重さにして左右の手で持つようにします。
荷物を体から離すと、膝や腰への負荷が増すので、できるだけ体に引き寄せて持つのがポイントです。
膝が痛い人は腰痛にも注意
重い荷物は腰にも負担をかけます。膝に痛みのある人は、立っているときの姿勢や、歩行時の姿勢がわるいことが多く、そのせいで腰痛を持っていることも少なくありません。
荷物を持っているときほど、姿勢に気をつけ、立つときや歩くときのよい姿勢を意識しましょう。
自宅で重い荷物を上げ下ろしすることも、避けたほうがよいですが、やむを得ないときは負担の少ない動作で行いましょう。
荷物を持つときのポイント
- 重い荷物は車輪付きのバッグに
- シルバーカーは両手で押して歩ける
- やむをえず、手で持つときは、左右に分けて持つ
- 荷物の持ち手をときどき変える
重い荷物の上げ下ろしのポイント
- 持ち上げるときは痛くないほうの膝を床につけ、腰を落としてかがむ(腰を曲げすぎないように注意)
- 腹筋に力を入れ、太ももやおしりの力を使って持ち上げる(荷物をおなかに引き寄せる)
- 荷物を体に付けたまま運ぶ(小さい歩幅で歩く)
※荷物を下ろすときは、逆の手順でやりましょう
軽減法③膝が痛い人のための靴選び
膝が痛い人にとって、靴は重要なセルフケアの道具です。
変形性膝関節症の人の膝は、靭帯が伸びて不安定なので、足をしっかり支えてくれ、安定感のある靴を選びましょう。
変形性膝関節症の人の靴は、かかとの安定と適度なクッション性が大切です。
理想的なのは、ヒール(かかと)が低くて太く、月形(かかとを包み込む部分)がしっかりして、靴底に適度なクッション性があり、足の甲まで覆う靴です。
甲の部分をひもで調節できるものなら、一層安定感があります。
変形性膝関節症の人が避けるべき靴
避けたほうがよいのは、ヒールの高い靴、足を支える部分が少ないサンダルなど。
靴底にクッション性がなく、地面から伝わる床反力が、ダイレクトに膝に伝わる靴もうよくありません。
また、足を包み込む形の靴でも、月形がやわらかすぎて、かかとや足首がぐらつく場合は、膝に負担がかかるので避けましょう。
靴を購入する際は、靴底の柔軟性もチェックし、必ず試し履きをして買うようにしましょう。
靴底の柔軟性も、大切なチェックポイントです。スニー力ーの場合は、靴底を曲げてみて、足の指の付け根がくるあたりで曲がるもの、ふつうの靴は、履いた状態で、やはり指の付け根部分で曲がるものを選びましょう。
軽すぎる靴は不安定な履き心地であることも多いので、適度な重量があり、重すぎないことをチェックします。
靴を買う場合は必ず実際に履き、月形や甲の部分のフィット感、かかとの安定感、靴底のクッシヨン性や柔軟性を確認しましょう。
変形性膝関節症の人の靴選びのポイント
- 甲の部分を、ひもで調節できるとよい
- 適度なクッション性がある
- かかとを包む部分(月形)がしっかりしている
- ヒールが太く安定感がある
- つま先に少し余裕がある
※足底板を入れるときは、義肢装具士に相談しましょう。
軽減法④膝を冷やさない
炎症が強いときを除き、膝はなるべく冷やさないようにします。衣服などで膝を保護し、入浴など自宅でできる温熱療法を取り入れて、血流をよくしましょう。
冷えると血管が収縮し、血流が低下します。すると筋肉の動きがわるくなったり、痛み物質が排出されにくいことから、いつもより痛みを感じやすくなったりします。
長めのスカートやズボンなど、膝を露出しない服装を心がけましょう。
とくに、寒い時期や、クーラーが効いている時期は、ストールなど、膝掛けになるものを、外出時に持ち歩くと安心です。
家の中でも、じっとしていると冷えを感じるという場合は、膝掛けを使用してみてください。
市販のサポー夕—も、膝の保護や保温に役立ちます。あまりきついものは、かえって血流をわるくするので、サイズの合ったものを使用します。
入浴で膝をあたためる
あまり強くない変形性膝関節症による痛みが慢性的に続く場合には、温熱療法が有効ですが、入浴は自宅で簡単にできる温熱療法です。
湯船につかると、全身の血流がよくなり、筋肉の緊張がほぐれます。痛み物質の排出も促され、痛みの改善につながります。
蒸し夕オルや市販の温湿布、カイロ、ホットパックなども手軽ですが、その場合は、低温やけどに十分注意します。
※入浴後にス卜レッチングを行うと効果的です。
急性の炎症には寒冷療法
急な強い痛み、腫れや熱感を伴う痛みの場合は、あたためずに冷やします。血管を収縮させることで、炎症が鎮まり、痛みが緩和します。冷たいタオルや氷のうで冷やしましょう。
氷のうの当て方
- 氷のう(ビニール袋を二重にしたものでもよい)に水を入れ、氷を適量加える
- ロをしっかり締め、付属の袋やタオルでくるむ
- ゆっくり転がしながら、患部をやさしく冷やす