変形性膝関節症で膝の変形が進んだ末期の人に行うのが、人工膝関節置換術です。
人工膝関節置換術は、関節の痛んだ部分を取り除き、人工関節に置き換えます。
膝全体に行う「全置換術」と、膝の内側か外側のどちらかに行う「単顆片側置換術」があります。
悪化した変形性膝関節症に人工膝関節置換術
膝全体を人工関節に置き換える全置換術
人工膝関節は、大腿骨側の部分と、脛骨側の部分に分かれています。大腿骨側の素材は、チタン合金またはコバルト・クロム合金といった金属が主流ですが、セラミックスを使用しているものもあります。
一方、脛骨側は2層構造になっており、大腿骨と接する側は、関節軟骨と半月板の代わりになる超高分子量ポリエチレン製、脛骨に取り付ける側は金属製です。弾力性のある超高分子量ポリエチレンが間に入ることで、膝のクッション性が保たれます。
大腿骨コンポ一ネン卜(金属)、脛骨インサ一卜(超高分子量ポリエチレン)、脛骨コンポーネン卜(金属)という部品が関節に付けられます。
全置換術は、大腿骨を先に切る方法と、脛骨の痛んだ部分を水平に切り取ってから、大腿骨の痛んだ部分を人エ関節の形に合わせて切り取る方法があります。
どちらの方法でも、仮の部品でサイズや動きを確認してから、実際の人工膝関節を取り付けて固定します。手術に要する時間は1〜2時間ほどです。
術後はO脚などの変形が改善して、膝が安定します。ただし、膝の曲がる角度が、手術前と同程度かそれよりも制限されるため、多くの場合正座はできなくなります。
また、膝をねじる運動を避ける、転ばないようにするなどの注意も必要です。
痛みが取れるまでには、数週間から数力月かかります。
部分置換術
関節の一部だけを置き換えるのが部分置換術です。
同じ変形性膝関節症でも、O脚の人は膝の内側、X脚の人は膝の外側の軟骨がすり減ります。
外側か内側のどちらかだけに病変がとどまり、骨の変形が少なく、靭帯に損傷がない場合は、痛んだ側だけを人工関節に置き換える単顆片側置換術(部分置換術)を行います。
全置換術と異なり、関節内で大腿骨と脛骨をつないでいる十字靭帯を切除せずにすむため、体への負担が少なく、術後の膝の安定性が高いというメリットがあります。
人工膝関節置換術で使用する人工膝関節の寿命
人工膝関節の耐用年数は20〜25年程度と言われています。
人工膝関節の研究は130年以上前から行われてきました。1970年代に、現在の人工膝関節の原型となるものがつくりだされ、以後、材質や可動域、固定法などが大きく進歩しています。
耐用年数(人工膝関節の寿命)も伸びましたが、ー般的には20〜25年といわれています。そのため、あまり若いうちに人工膝閨節にすると、新しい人工膝関節に入れ替える「再置換術」や、ゆるみを治す手術が必要になることもあります。
これらをできるだけ避けるためには、最初に人工膝関節置換術を実施するタイミングを慎重に検討することと、術後は人工膝関節の寿命を延ばすセルフケアを行うことが重要です。
変形性膝関節症は片側だけでなく両側に起こることが多いため、左右とも人工膝関節にする人も少なくありません。左右の手術時期をずらす方法と、同時に行う方法があり、最近は左右同時に手術を実施する病院が増えています。
手術を同時に行うほうが、入院やリハビリの期間を全体的に短くすることができ、患者さんの負担を減らせるという考え方です。
日本で1年間に行われる人工関節の手術は、全体で20万件以上にのぼります。
そのうち膝は、全置換術、単顆片側置換術を合わせて6〜7万件で、10年前の約2倍です。
高齢化に伴い、人工関節の手術は今後さらに増えると予測され、アジア人の膝や股関節に合う人工関節の開発も進んでいます。